Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
年々夏の猛暑が厳しくなってきて「地球温暖化やばくね?」と実感させられたこの夏も、気づけばあっという間に通り過ぎてようやく過ごしやすい秋がやってきました。秋になるとなぜか無性に坂田晃一先生の音楽を聴きたくなってくるんですよね。
というわけで今回は「俺的・秋になると聴きたくなる坂田晃一先生の大好きな曲」特集です。
坂田晃一先生といえば、なんといっても数えきれないほどのドラマの劇伴や主題歌を手がけた第一人者。朝ドラ史上最高視聴率を記録した「おしん」をはじめ、「おんな太閤記」「春日局」といった大河ドラマ、さらにアニメでは高畑勲監督の日本アニメーション作品「母をたずねて三千里」やコクリコ坂で使用された「さよならの夏」(原曲は森山良子)、そして「もしもピアノが弾けたなら」「鳥の詩」が大ヒットした「池中玄太80キロ」などなど、挙げればキリがない名作ばかり。
どの曲にも心に染みる美しいメロディがあって、その抒情性や寂寥感のせいか季節の変わり目になるとどうしてもターンテーブルに乗せたくなっちゃうんです。
というわけで今回はそんな坂田晃一先生の珠玉の名曲の中から、特に秋にぴったりで、しかもコンピ盤にもまず収録されないような“知られざる名曲”たちを紹介していこうと思います。配信されてない曲がほとんどですがよかったら探して聴いてみてください。
さて、まずはざっくりと先生の経歴から。
1942年、東京生まれ。早稲田大学高等学院、東京藝術大学(チェロ専攻)を経て作曲を山本直純氏に師事。1965年からテレビドラマ、映画、レコード、舞台、CMと幅広く活動を展開。叙情的でロマンティックな曲調と斬新な手法で注目を集め、現在に至る――と。
それではまず、NHK大河ドラマでの壮大なオーケストレーションを聴いてみましょう。
おんな太閤記(1981年)~いのち(1986年)/NHK交響楽団
いやーすんばらしいですね。おんな太閤記のエンディングの展開に痺れまくるんですが!?オリジナルスコアに忠実に最新のN響の映像で見れるのも最高すぎてこの曲の解像度がぐっと…って今回は坂田先生のドラマ主題歌、歌謡曲の7インチ紹介がメインなので、オケ曲はこのへんで。
というわけでまずはソニア・ローザ「帰らざる日々」。
NHK銀河テレビ小説の主題歌として、なんとエレック(!)からリリースされた一曲。
マイナーボサの切ないメロディとソニア・ローザのボーカルが絶妙にマッチしてて、秋の夜長にぴったりのしっとりムード。
ちなみにソニア・ローザの音盤化されてないドラマ主題歌には名曲が多くて、同じ銀河テレビ小説「鏡の中の女」「夏に逝く女」や「俺はご先祖さま」(どちらも大野雄二先生作曲)など、和製ボサノヴァの隠れた名曲がゴロゴロしている。
で、「帰らざる日々」に話を戻すと、サビで入ってくるシンセのポルタメントの上がり方がまた洒落てるんですよね。
続いてもソニア・ローザ。1976年発売のシングル『つぶやき』B面収録「すがお」。
ミディアムシャッフルでボサではないけど、しっとりした切なさがこみ上げてくる洒落た曲想は「帰らざる日々」と地続き。
ポイントはオブリガートで入ってくるハモンドオルガンの音色。坂田先生のこの時期の定番で、元を辿るとフランシス・レイの「白い恋人たち」におけるハモンドの音色の影響を感じるんですよね。ハモンドの音色もさることながら装飾音の使い方がそっくり。もちろんこれはあくまで私見なんですが、レイを連想をさせちゃうほど先生の曲が洗練されてるってこと。
さてA面の「つぶやき」はマイナーボサでまあいい曲ではあるのだが個人的にはB面推しかな。「つぶやき」はよみうりテレビ制作のドラマ「渇愛」の主題歌としてリリースされた曲で、やっぱりドラマ仕事が多かったのが伺えます。
沢たまきの75年7インチ。ハスキーなボーカルで大人の恋愛を哀愁たっぷりに囁き歌う。
なかにし礼の詞がまた切なさを盛り上げてる。ここでもフランシス・レイ調のハモンドのオブリガートが聴ける。
同年のアルバム『夜のためいき』にも収録されていて、今は配信でも聴けます。
もう1曲、沢たまきから。78年のシングル「初めての日のように」B面収録の「男友達」は前田憲男を編曲に迎えたジャズ歌謡でシンガーズスリー(?)のスキャットに導かれたメロウなメロディーに洒落たセンスが光る。
沢のハスキーな声がしっとりハマってて、終わった男女の茶飲み話が大人の会話に昇華していく感じ、最高です。
再びドラマ主題歌。坂口良子の「まるで少年のように」。
針を落とした瞬間、「あーこれぞJust a little lovin’歌謡だな~」と感じ入る。とはいえJust a little lovin’歌謡と言われた西田佐知子「くれないホテル」同様、意外とこちらも元イメージとしてはEngelbert Humperdinckの”Last Waltz”なのかもしれないですが…。いやーしかしいい曲。
惜しむらくは坂口良子のちょっと無理矢理感あるウィスパーボーカルがうまく機能していないことか。無理にウィスパーにしなくて普通に優しく歌った方が曲に合ってたんじゃなかろうか(…あとちょっとピッチ直したい)。せっかくのいい曲がちょっと勿体ない。叶うならこの曲をいしだあゆみさんで聴いてみたかった。さて、この曲は日本テレビ系ドラマ「田中丸家ご一同様」の主題歌で劇伴も勿論坂田先生なのだが、この曲のインストメロ崩しバージョンなんかもあったのかな(すごく聴いてみたい)。
続いては真木悠子の「白い旅」。真木悠子のスキャットに浅丘ルリ子のナレーションが乗るマイナーボサ歌謡の名曲。
よみうりテレビのドラマ「新車の中の女」の主題歌としてリリースされてる訳だが、ドラマのOPでもこのスキャット+ナレーションという斬新な構成だったのかな?
B面は同曲を石坂浩二が作詞し「明日の海が見える」と改題、全編真木悠子が歌う挿入歌となっている。
個人的にサビ直前のストリングスラインに毎回胸をえぐられるんですよ…「くぁーーーっ!」って唸るほど。
ジャケで浅丘が乗る車はフォード・サンダーバード1974年式。
もう1曲、真木悠子でよみうりテレビのドラマ「北都物語」から主題歌「めぐりあい」を。
沖雅也演じる単身赴任中年男と女子大生のアバンチュールというメロドラマ的なシチュエイションが…と書いてしまうと陳腐だが、1話冒頭の映像の北海道の大雪原で散弾銃を持って対峙する男女の絵の迫力と相まって一気にドラマの世界に引き込まれそう。ドラマ全編を見てないがいわゆるフラッシュフォーワードをドラマの冒頭に…って展開なのだろう。原作渡辺淳一、脚本は市川森一、うーん気になる。そしてフラッシュフォーワードに導かれて始まるOP「めぐりあい」の壮大なイントロ、これがまたいい曲なんだな~。
俳優レコ代表格、岩下志麻の「罪のように愛して」。
ネスカフェCMソング「めざめ」を思わせるヨーロピアンエレガンスな香り。スキャットは伊集加代さんで間違いなかろう。
伊集さんのスキャットに導かれ素晴らしいナレーションが堪能できるがなんと岩下志麻はサビから先、ボーカルも聴かせてくれる。ダバダ~スキャットの上にナレーションが被り、さらに歌までとはこの手の俳優レコード大好きっ子としてはなんちゅうご褒美感。岩下志麻はナレーションもののアルバムを2枚リリースしているが、このシングルは同時期のLP『岩下志麻の世界~私の好きな歌』には収録されていない。イントロで聴かれる笛はこの時期、先生がトレードマークのように多様していた南米アンデス地方の笛、ケーナと思われる。
最後にもう1曲、俳優のナレーションものを。
アラン・ドロン&ダリダの「あまい囁き(Paroles, Paroles)」のアンサーソング的存在で、甘く囁きかける男に女が歌で返す構成もそっくり、曲想もよく似ている。そもそも「あまい囁き」を細川自身も中村晃子とのデュエットで日本語版「甘い囁き」としてヒットさせている訳でそれを受けた続編的な位置付けとしてリリースされたのだろうか?さて、この曲にも坂田先生特有の印象的なハモンドのオブリガートが入っていて、個人的には大きな聴きどころになっているのだが、この一連のオルガン奏者は誰だったんだろう。
というわけで「秋になると聴きたくなる坂田晃一先生の大好きな曲」特集、いかがでしたか?
最後に、毎度の手前味噌ながら僕が書いた曲の中で坂田先生の作風をど直球で意識した曲を紹介させてください。
ギャランティーク和恵さんの夜間飛行10周年記念シングル「輝いて!Night Flight」のカップリング曲「十年目の独白(モノローグ)」です。
和恵さんのナレーションから始まり、フランシス・レイ的な装飾音たっぷりの例のハモンドももちろん登場。作詞の東西蘭月と一緒に作った最後の曲です。
秋の夜長、ハモンドの響きとともに。
ターンテーブルに針を落とせば、時代と旋律が静かに息づき始める。