Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
モノを減らしてスッキリ暮らす、ときめかないものは思い切って処分するという文章を見かけて、家の中を見回すとときめかないものどころか、使いにくいもの、また嫌な思い出を想起させるもの、高かったのに思ったのとちがう、使いにくいものばかりがあった。自分にしてはちょっと高いのを思い切って買った場合、「失敗してしまった……」という事実を認めたくないので良いところを探そうと必死に思う。でも結局使うたびに失敗してしまった、でも認めたくない!という気持ちになってつらい。汁物を取り分けるように買ったはずが思ったよりも深さがない食器とか見た目はいいけど重たいとか。今、私を悩ませているのが鉄製のフライパンと中華街で買った中華鍋。片手だから北京鍋というのだろうか。正式名称はよくわからないけど、こげつかない加工をしているものは体に悪い、鉄製の鍋を使うと鉄分補給出来るとか一生使えるからいいとか。いろいろな理由を総動員してちょっと高い(あくまでも私には)こだわりの店で買ったのが息子がおなかにいた時。子どもが生まれたら、今度こそ体によい丁寧な暮らしをしようと思って。でも子が生まれ、育児が思った以上に大変で手首が腱鞘炎になったので軽くて安いこげつかない加工をしているフライパンと深めの煮物も出来る鍋を買った。軽くて使いやすいけど、これでは鉄分がとれない、便利な加工も体に悪いんでは……と使うたびに思った。そして息子が中学生になり、手もかからなくなったので、かつて途中で断念してしまった「ていねいな暮らし」を再開すべく、同じ鉄製のフライパンと中華鍋を買った。鉄分は取れているのかもしれないが、油を多めにひかないとこげついてしまう。炒め物にはついつい多めに油をいれている、まあ入れた方が美味しいですし、お店で食べる中華の油の量に比べたらまあいい方なのでは。結果、鉄分と同時に油分も確実に摂取している。重たい鉄のフライパンでハンバーグを焼くと美味しそうに出来るけど、洗うのもちょっと面倒だ。洗剤をつけず、竹のブラシでこげを落としてそのあと火にかけて水分を飛ばさないと錆びてしまう。え?こんな簡単なことが面倒なの?マジっすか?と思う人もいるかもしれない。買い直した時には、心をいれかえて、今度こそていねいに暮らすのだと張り切っていたのに、気がつくと軽くて安いフライパンばかり使っている。それも傷がついて加工が取れて焦げ付くようになった状態のよくないフライパンを。こっちを使うたびに鉄のフライパンを使っていないという事実がよぎってチリチリとした気持ちになる。うしろめたい。また同じことをしている。ていねいから程遠い暮らしだ。鉄分も取れない上に、加工もはがれているのはきっと良くない。こんな良くないフライパンがあるからつい使ってしまう。鉄製のものしかない時代にはみんな鉄のフライパンを使ってたわけだし、鉄分をとらないといけない。
軽いフライパンがあるから鉄のフライパンが重く感じるのだ。鉄のフライパンしかなければ、腕の力もきたえられていいかもしれない。そうだそうにちがいない。
ということで、焦げ付かない加工がはがれかけているフライパンと深めのなべを思い切って捨てたのです。今は重たい鉄製のフライパンと中華鍋しか家にない。それしかなければそれに馴染んでいくだろうと思ってたけど、ちょっとした目玉焼きとソーセージを焼くだけに鉄のフライパンは面倒だ。ハンバーグとかならともかく本格的すぎるんじゃないかと思っている。加工付きのだったらサラダ油を引かないでも目玉焼きがスルッと離れたな、あっちの方が油も使わないし、体によかったんじゃないかとも思う。鉄分よりも油を取らないことの方が今の自分には重要だったんじゃないかとか。いろいろな理由を総動員して、軽いフライパンを買おうとしている。
軽いのと鉄のが両方あるとただでさえ狭い台所がごちゃごちゃする。もう鉄製のものは手放してもいいような気がする。もう鉄を扱うのは自分には無理な気もしている。
あと、家になくても良いんじゃないかと思っているのが野菜の水切りかご。ぶんぶんまわして遠心力で水洗いした野菜の水分が切れる。はじめて使った時、レタスの水がキッチリきれてサラダがとても美味しく出来たことに感動した。サンドイッチにも良かった。でもレタスの水を切るだけのものだ。使っていない時はものすごくかさばる。そういえば、はじめて使った時は外国で無駄に広いキッチンでだった。L字のカウンターの上に使い終わってボンと放置していても、なんとなくそれだけで絵になった。でも今は狭いキッチンなので、あんまり使わないし、戸棚の高いところ、脚立を使わないととれないところにしまっている。思い切って捨てちゃおうと処分用箱に入れていたら息子に見つかってしまった。「今は要らないと思って捨ててもまた、野菜を食べなきゃとか言って同じの買うと思うよ」と的確すぎる指摘を受け、捨てそびれてしまった。そのほかにもいろいろ必要のない調理器具がある。友だちに「こんなにいろんな大きさのボウル要らないでしょ!」と言われたり。でもメレンゲ作る時に小さいと作りにくいんですよね。でもこのあとの人生で何度メレンゲを作るかなとも思う。お菓子を作るのが好きなのでボウルの大きいのくらいはあってもいいのかもしれない。捨ててすっきりしたい気持ちと、きっとまた買ってしまうだろうという気持ちの間でいつも揺れている。捨てては後悔して、また同じの買ったりしてる自分は本当にどうしようもないと思う。もうそろそろ自分がていねいな暮らしに向いてないことを受け入れたほうがいいのかもしれない。
写真 久しぶりに作ったシフォンケーキ
メレンゲ用の大きいボウルもハンドミキサーも最近使ってない、毎日暑いし……と思ってケーキをぜんぜん焼いてなかった。器具を使ってないといううしろめたさから逃れるために久しぶりにシフォンケーキを焼いてみました。作ってみたら意外と楽しくて良かった。でも部屋がものすごく暑くなるので早く涼しくなるといいなと思っています。