Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
冷水ひとみ
おかげさまでSyzygys (冷水ひとみ:43微分音オルガン/西田ひろみ:ヴァイオリン)の13年ぶりの新作 "Chi Kyuu " がリリースされました。
アルバムカバーは定番、美術家 中ザワヒデキ氏の、”Blue Sky” 大学受験時代に描かれたという最初期作品です。
Apple music でサンプルが聞けます。
その他の購入リンクはこちら
https://push.fm/fl/pmza9nzf
音楽事務所のコラムですので、曲目別に音楽手法(オルガンの使い方)など簡単に解説してみます。
1 Chi Kyuu 地球
地球愛的瞑想曲 純正律のメジャーコードは明るくパーッと広がるような響きになります。この曲では主にほぼ純正Fメジャーのコードを使って大気の拡がりを表現しています。“ディックジョンソンの死” (ネットフリックス Kirsten Johnson監督)というアメリカ映画のラストシーンに使われています。お葬式のシーンですが、この映画の一番大切な場面です。
2 Lady Titan レディー タイタン
憧れの土星の第六惑星タイタンに住む情熱的な生命体のイメージ。低めの「レ」から「ミb」辺りまでの半音間を細かい微分音で上下するベースラインが特徴です。1から44までの鍵盤番号でいうと、8-9-8-9-10。8と9の間はかなり狭いのでほとんど同音に聞こえるかもしれませんが、同音にすると、少しニュアンスが減ります。立岩潤三さんの生パーカッションが入り、ちょっと初期スタートレックの異星の雰囲気?
3 Yumemi no E ゆめみのえ
山村浩二さんの素敵な日本画アニメーション「ゆめみのえ」のオープニングの短い曲。
メシアン第二モードと微分音の組み合わせ。案外相性がよいのです。
4 Five Quarter 四分の五
シジジーズ流のプログレッシブロック。不協度の高いコード、複雑な動きのメロディー、中間部ではハリー・パーチの43-tone scaleが暴れます。
どうしても打ち込みドラムでは満足できず、プログレのドラマーの生録を送ってもらい、混ぜています。
シジジーズは、おそらく楽器の周波数帯域のため、生ドラムとは相性が悪く、今まで失敗続きでした。
今回はどちらかというと、生ドラムの残響を打ち込みの硬い音と混ぜることで落ち着いたように思います。
これは数年前のライブ映像。リズムトラックはこのときより改善されたはず。
オルガンはこんなふう↓に弾いています。番号は覚えられないので指の形でフレーズを覚えます。
両手で弾いてるけどやっぱり端は映らないね。ちなみに、この映像のオルガンは2号機=銀さん、ですが、CDは1号機=金さんです。
5 A Cassette ア カセット
シジジーズの練習を録っていた古いカセットテープを整理していたとき発掘した即興演奏。
いいとか、悪いとか、なんだかわからないけれど、なんだか面白い! その即興を採譜して再構成。
大変でした。ふたりとも、かなり個人練習 したはず。(笑)
微妙で奇妙なハーモニー、ジャンル不明のヴァイオリンと微分音オルガンのデュオっていうかなんていうか・・。
6 Taqsim Salam with Organ タクシーム サラム オルガンとともに
タクシームとはアラブ音楽におけるソロ即興、サラムは「平和」。アラビックチューニングのヴァイオリンが、最後にオルガンと合流。このショートバージョンではオルガンに合わせたチューニングにしているとのこと。やはり調整しないとオルガンと微妙に調和しなかったのも発見でした。
そして、この曲のヴァイオリンソロのフルバージョンをストリーミング及びダウンロード販売しています。
恩師Abdo Dagherに捧ぐ、「タクシーム サラム by 西田ひろみ」
シングルリリースできる限界ぎりぎり、9分59秒の大作!
“Taqsim Salam” by Hiromi Nishida Apple Music
その他のリンク
https://push.fm/fl/scozb6zy
7 Beautiful Swan 美しきスワン
友人の結婚式のために書き下ろしたウエディングソングの新アレンジ。ハッピーな曲も入れたいね、ということでしたが、やっぱりちょっと変? またまた山村浩二さんのアニメーション 「パクシ」の一家団欒シーンのBGMでもありました。曲を聞き覚えていらしたパクシファンの方がおられてビックリ。
8 The Gate 門
おそらく、一度ライブで演奏しただけのボーカル曲の再アレンジです。その時のメモには「こころの闇」とかいてありました。ますます激化する中東の対立。今や中東だけではありませんが、”対立はやめようよ”という意味の” Open the gate! “というサビの歌詞であったかと思います。今も同じ思いです。
9 Nearly Pure Mind ほぼピュアな心
微分音オルガンをピアニッシモで一音ずつサンプリングし「ほぼ純正」なハーモニーのシーケンスを構成。「純正」という言葉にとらわれると、数値の正確さを追いがちですが、音楽としてピュアに感じる響きは計算だけでは得られないという体験。空気も物体も身体も地球も常に動いていて、その相互作用はとても複雑なのでしょう。この曲だけは、サンプリングのオルガン音をミニキーボードで弾いています。
ミニ鍵盤でないと指が届かなくて和音が弾けないのです。
このCDの他の曲は、すべて、一号機金さんを使っています。実は前回、前述のDick Johnson Is Deadという映画音楽の録音をしてからパンデミックになり、数年まったく弾いていませんでしたので、やはりほんのすこーしピッチが下がっていました。ほんの少しピッチが変わると、他の楽器との響き方が変わってしまったりして大変。微分音をあつかう音楽の場合かなり神経を使う部分です。ほんの微細なピッチの違いが影響します。
とはいえ、そこをあれこれやってみて、耳で聞いていい感じにおさめて行く道程もまた、勉強になる実りのある時間だといえるでしょう。不思議だなぁと思う体験、それに自分を合わせていくこと、が好きなのかもしれません。
では Syzygys “Chi Kyuu “ “ Taqsim Salam” をぜひ、聴いてみてください。