Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
松前公高
たまには本職の音楽、打ち込みの話題も書こうと思います。
今回は「マルチ音源」について。ハードウェアの時代にRolandのMT-32が発売され、その後SC-55、SC-88といったGM音源や、PROTEUS/1XRなど、お世話になった機材ばかり。一台で16チャンネル分の音を出せる(つまり16台入ってる)のが魅力でした。
ソフトウェア時代になって、まだVSTなどのプラグイン規格が決まらない1997年、Seer Systemsから発売された「Reality」はかなりお気に入りでした。音も良かったし当時のCPUでも複数チャンネル鳴らす事が出来た。開発にはDave Smithも関わっていた事で話題に。
まだプラグインという概念がない時代。DAWとの連携は仮想MIDIドライバーで二つのアプリをつなぐとか、パソコン二台で一方を音源にしてとか面倒な作業でした。それでも「パソコン一台で音楽制作ができる時代の到来」を予感させてくれました。
プラグインの規格が1999年に発表され、2001年にIK MultimediaのSampleTank、2002年にNIのKONTAKT、SpectrasonicsのAtmosphereというとんでもなく音の良い音源も現れた。
家にある大量のシンセをすべて処分して、これからはソフトウェア中心にすると決断させるに十分な変化を感じました。
2026年現在、それは現実となり、更にソフト音源は進化し、素晴らしい制作環境が整っていますが、それでもやはり当時のソフトウェア版マルチ音源は便利なのです。
音色の読み込み時間がかからない。大量の音色。ちょっとした作曲作業が簡単に行える。それを後で良い音源に差し替えたり、そのまま使う事も少なくない。山下達郎氏が、RolandのD-110という音源を使われていた事からもわかる様に、楽器は値段ではなく「適材適所」なのです。
そんな事で前置きが長くなりましたが、今でも僕が使ってる、軽くて、便利で、大量の音色、音の良いソフトウェア・マルチ音源をご紹介。
(有名なものばかりなのでマニアの方には何の参考にもなりません)
バージョン1は2006年と、かなり古く、最初はPro Tool専用(RTAS規格)でしたが、バージョン2になって音色数も2500以上に、4パートまでマルチで使えて、とにかく軽い。音色自体も軽めなものが多いけれど、これが「適材適所」であって、存在感の薄い音色が必要な事も多々あり、そのまま使う事も少なくありません。エディットはあまり出来ないけれど、その必要がない位のプリセット数なので問題なし。
CuBaseに付属していたHALion Sonic、更に良い音源であるHALion導入の為の簡易版という感じでしたが、ユーザーインターフェースが素晴らしくて、むしろこちらの方が使いやすい。本格的なエディットや膨大なライブラリを望むのならHALionですが、Sonicでも基本ライブラリーを手に入れれば3000以上の音色、エディットも少しは出来る。Xpand!2とHALion Sonicは古い製品だけど、CPUの進化で、機能を増やしたり、サンプルの容量を増やさず、当時のライブラリーのまま使っている事で、現在の環境では、恐ろしく軽い動作なのが何より素晴らしい。
現在、エンジン(プレイヤー)自体は無料ですが、ライブラリを購入する必要がある様です。
KORGはハードウェアメーカーながら、いち早く自社開発でソフトウェア版を発表しており、MS-20、Polysix、MonoPolyなどのソフト版も発売当初から使用していましたが、その後Trinity、Triton、Triton Extremeなど90年代を代表するワークステーションもPCM音源部分だけがソフトウェア化されています。当時のサウンドが魅力で、操作にも慣れているので非常に重宝します。ベル系、シンセブラス、エレピなどは現在のリアルなサンプル音源とは別の形で使える音色。PCM音源のソフトウェア版は、Roland社からもJV-1080やXV-5080が発売されています。他社の当時の音源ももっとソフトウェアで再発してもらいたいものです。
ソフトウェア版マルチ音源は、ハードウェア同様、複数のチャンネルの音を一つのプラグインで同時に出せるのが魅力でした。1台1チャンネルで複数台立ち上げるより、1台の音源を立ち上げて複数の音を鳴らせる方がCPUへの負荷も圧倒的に少なくてすみました...「最初」はそうでした。
しかし、今、実はこれが罠になっています。というのも、今のCPUは複数のCOREがあり、複数の仕事をCOREを別にして同時に行う事で負荷を軽減する設計になっています。1つの音源を立ち上げると、それ全体が1COREに割り当てられてしまう為、マルチ音源の仕事を1COREで行います。逆に別々に複数台の音源として立ち上げればCOREが分散され、実はこちらのほうが負荷が少ないという逆転現象が起こっています。
マルチ音源の価値は少なくなりましたが、それでも負荷が少なく、サンプルの読み込みに時間がかからない音源は、何かひらめいた時にすぐ作業が行える点で、今後も手放せない音源群になっています。